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2026/06/13

氷塊

とある白い竜のおはなしです。




きがついたときには、わたしは、あったかい部屋の、あったかいおふとんの上にねかされてしました。
大きなだんろに火がともっていて、ぱちぱちと音をたてていたのが、すこしこわかったです。

目をさましたわたしを、男のひとと女のひとの、あったかい瞳が、不安そうにこちらをのぞきこんでいました。
わたしはそのとき、何がなんだか分からなくて、声を出す事ができなくて、おふたりの瞳が、ますます不安そうになるのを見て、ごめんなさい、ってきもちでいっぱいでした。
ちょっとしてから、わたしはちゃんとおはなしができるようになりました。
そして、外でたおれていたわたしが、このおふたりにひろわれたのだということを知りました。
孤児であったわたしは、からだの色がめずらしかったので、色々なところに買われて、売られてをくりかえしていましたが、つぎのおうちに行くとちゅうに、おふたりがそれを止めて、わたしを助けだした、ということでした。
おふたりには子供がいなくて、行くあてがないのだったら、うちの子にならないか、ときかれたのですが、わたしは、いみがよくわからなかったので、おこられないように、はい、とこたえました。


わたしがアルスさまとリリィさまに拾われて、二年が経ちました。
今日は、わたしの為にパーティーを開いてくれるそうです。申し訳ない気持ちでいっぱいだけれど、とても楽しそうなお二人を見ると、しなくてもいいです、と言う方が申し訳なくて、お言葉に甘える事にしました。
わたしはとても幸せ者です。奴隷でしかなかったわたしが、こうして温かい家庭で生きてゆけるという事。何も分からなかったわたしに、色々なことを教えてくれました。こうやって、色々な文字が書けるようにもなりました。
本当に、お二人には感謝してもしきれません。あの時拾われていなかったら、きっとわたしは今も売買される日々を送っていたか、それとも、この命が…
こんな事を考えてくよくよする分、今が幸せなのでしょう。まだお父様、お母様とは呼ぶ勇気が出ないけれど、いつか。そして娘として、たくさん、たくさん恩返しがしたいです。


アルス様が、お前もバトルをしろと言ってきました。私はバトルは好きではないのですが、アルス様に言われては仕方がないので、しぶしぶお相手しましたが、勿論けちょんけちょんにやられてしまいました。
そもそもアルス様もリリィ様も、国に仕える騎士なのです。そして、一介の従者でありながら、その戦果を認められて、貴族と同じ地位を与えられ、王にも寵愛される…そんな方なのですから、私なんかが敵う訳が無いのです!
けれど何だかアルス様は楽しそうで、リリィ様もそれを笑って見ておられました。
ちょっと悔しいので、訓練というものをしてみたいけれど、お二人にお願いするのもなんだか恥ずかしいので、最近仲良くしてくれる、チゴラスの兵士さんにお願いしてみようと思います。


アルス様が、私を殺そうとしたのだと思いました。とても怖かった。
リリィ様は、いつもの事だと言ったので、アルス様は戦場だと、あんな顔をするんだなと思いました。
アルス様が熱くなると怖くなるというのは聞かされていましたが…
熱くさせるまでに私が強くなった事を喜ぶべきなのでしょうか。
バトルはもう、したくありません。


国の情勢がよくない、という話をよく聞くようになりました。
お二人も遠征が近いかもしれないそうです。ずっと平和が続けばいいのにと私も思いますし、何より寂しそうなお二人を見るのは悲しいです。
私はお二人の子供なのに、何もできないのが歯がゆくてなりません。どうしたらこの国の為に、お二人の役に立てるのか、見当がつきません。
今までたくさんの事を教えて貰ったのに、まだ何一つとして恩返しが出来ていません。
戦争は沢山の命を奪うものだと教えられました。そしてお二人がたくさんの命を奪って今の地位にあること、その地位のおかげで私を養えている事も。
けれど私はアルス様とリリィ様が大好きです。お二人に居なくなって欲しくはありません。
でも、何をしたらいいのか、分からないのです。


今日は、困っているおじさんを助けました。目の不自由な方だったようで、宿まで案内しました。
お礼に甘いお菓子を貰って、色々なお話をしました。最近は仲の良かった人たちもピリピリとしていて、話しかけられる雰囲気では無かったので、アルス様とリリィ様以外の方とお話しするのは、久しぶりだったのです。
おじさんはこの国で、参謀をしているそうです。昔は他の国にいた事があって、その事をたくさん教えてくれました。
参謀の人は国の中枢に関わる人ですから、そこで私は、アルス様とリリィ様の役に立つにはどうしたらいいのか、と聞いてみました。そうしたらおじさんは、私にも出来る事があると教えてくれて、私はその通りにしました。
その事とは……秘密です!おじさんとの約束なので、これは仕方のない事です。
少しでもお二人の役に立てて、私は嬉しいです。


戦争が始まりました。アルス様とリリィ様が出発して一週間ですが、何の連絡もありません。
とても怖いです。けれど、私がおじさんに教えたことは、きっとお二人のためになっていると信じています。おじさんは賢い方だし、騎士団はとっても強いです。この国が負ける事は、ありえません。
そしてまた、三人で、平和になったこの国で、暮らすんです。


王宮に隣国の兵が雪崩れ込むのに、そう時間はかからなかった。王宮の内部構造はおろか、騎士団の作戦さえ全て筒抜けだったのだ。
たった一人の少女の手によって、国は崩れ去る。
良かれと思ってやった事は、最もしてはならない事だった。
二人の為を思ってした事は、二人を最も傷つける行為だった。


馬鹿な事をした。
火の手が上がる王宮を、三人の思い出を背に、リコリスはそう思った。

ただ、そう思った。



それから先の事は覚えていない。

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2014/03/17 設定 Comment(0)

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